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表紙によせて

 かつて私がフィールドとしていた場所の一つに、当時の自宅から歩いていける距離にある公園があります。武蔵野の面影を残す雑木林では、春の訪れとともに、フデリンドウニリンソウ、スミレ類(アオイスミレタチツボスミレマルバスミレ等)など、さまざまな植物が花を咲かせます。

 10年あまり前、この公園の雑木林にシュンランが生えているのに気づき、それ以来、3月になると、この公園までシュンランの観察に出かけるのが習慣になりました。花を2つつける個体を見つけ、次の年に再訪すると花の数は3つに増えていました。毎年、少しずつ花の数が増えていくのを楽しみにしていましたが、ある年、同じ場所を訪ねると、そのシュンランは見あたらず、いくら探しても見つけることはできませんでした。この写真のシュンランは、残念ながら今では見ることはできません。

 あるいは、そのすぐ近くの博物館に改築工事があり人の出入りが多かったことと関係があるのかもしれませんが、このように身近な植物がだんだんと少なくなっていくのはとてもさびしいことです。「やはり野におけ れんげそう」という言葉を引きあいに出すまでもなく、野生の植物は自然に生えてこそ、その本当のよさを感じることができるのではないでしょうか。


         (1992.3.20 東京都小金井市)

○野生植物図鑑「シュンラン」
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