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表紙によせて

 ラン科の植物のなかでも、人々の生活エリアに近いところを主な生育環境とするものは、もっとも受難が大きいのではないでしょうか。戦後の土地開発の拡大や、盗掘による個体数の減少だけでなく、農村の生活スタイルが変化して生育場所が急速に失われたことによる影響が大きいと思われます。雑木林や竹林は、地域の人たちが手を入れることで適切な環境が維持され、こうしたランが世代をつなげることができます。

 思いつくだけでも、シュンランキンランギンランエビネなどが挙がりますが、なかでもクマガイソウは大きな花と葉の取り合わせが特徴的で、丸くふくらんだ唇弁を平家物語に登場する熊谷直実の母衣(ほろ)にたとえたという名前の由来とあわせてインパクトもあり、植物園だけでなく、庭園や個人宅にも植えられて親しまれてきたランの1つです。

 ところが自生のようすをみると、クマガイソウはこうした特徴が災いして、とりわけ数を減らしています。人目につかないところで、青息吐息で生き残っているケースもあると聞きます。その増殖自体は、地下茎を地中でのばして個体数を増やす栄養繁殖がメインですから、環境さえ保たれれば少しずつ増えていくはずで、実際、4年ぶりに訪問した撮影地では以前よりも明らかに数を増やしていて、現存する自生地の環境維持がとりわけ重要と感じました。

          (2020.4.26 神奈川県)

○野生植物写真館「クマガイソウ」
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