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表紙によせて

 阿蘇ははるかな地とあって、関東地方に住んでいたときに足を向けたのはわずか2回でしたが、長崎県への転居後は、2年あまりのあいだに、季節や場所を変えつつ6回にわたって出かけています。このペースは、20歳代のころに足しげく通った尾瀬と同じくらいで、阿蘇はそうするだけの魅力ある植物の宝庫といえそうです。

 阿蘇の草原や湿地には、中国大陸と共通する植物が遺存的に分布していて、「レッドデータプランツ」(山と渓谷社)には、永田芳男さんにより活写されたこうした植物が多く掲載されています。そのようすにあこがれて訪ねた現地では、草原といっても、牧野として管理されているところや、採草地として維持されているところ、さらに人の手が入らなくなって半ば放棄状態となっているところもあって、阿蘇ならではの植物たちは、いったいどういった環境に生えるのか悩んでしまいました。

 とはいえ、何回も足を向けるうちに、種類ごとの生育環境の見当がつくようになり、ヤツシロソウオオトモエソウマツモトセンノウなど、目指す植物とのめぐりあいも増えてきたのですが、最後まで残ったのがハナシノブでした。この植物ばかりは、丁寧に歩き回っても1個体もありません。結局、機会を得て、自生のまま生育状況を調査しているものをようやく撮影することができました。見慣れたミヤマハナシノブにくらべると、花はコンパクトですらっとして、名前にたがわないおしとやかな印象でした。

         (2019.6.9 熊本県阿蘇)

○野生植物写真館「ハナシノブ」
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