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表紙によせて

 7月のアポイ岳に登るのはこれが初めてのこと、登山口へと向かう途中、海ぞいの国道は低く霧が立ちこめていました。ところが、現地に着いて身支度もそこそこに歩きだすと、しだいに視界は広がりはじめ、ときおり日がさすほど天気は回復してきました。幸先のよさに登り道も苦になりません。避難小屋をすぎて稜線歩きになると、咲いている花ははやくも夏の様相で、エゾコウゾリナキンロバイなど黄色い花がめだつようになりました。
 
 さらに高度を上げていくと、草まじりのれき地に遠目にもそれとわかる色の花が目に入り、期待していたエゾルリムラサキがようやく現れました。ミヤマムラサキに近縁ですが、全体に大型で太い毛が密生するほか、なんといっても、より濃い瑠璃色の花が最大の特徴です。「夏の野草」(山と渓谷社)に掲載されたエゾルリムラサキにひかれてから20年近くを経て、ようやく実物に相対することができました。
 
 同書には「残念なことにフィルムでは正確な色は再現できない」とあり、わたしが撮影した写真でもそのとおりなのですが、赤みのない濃い瑠璃色は、野生の植物ではなかなか見られない深みのある色あいです。アポイ岳では、温暖化の影響か、ハイマツの群落が広がり、高山植生に影響を与えていると聞きますが、いつまでもエゾルリムラサキが咲きつづけてほしいと願いつつ、下山路へと足を向けました。

          (2009.7.5 北海道アポイ岳)

○野生植物図鑑「エゾルリムラサキ」
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