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表紙によせて

 気鋭の山岳・植物写真家として、記事や書籍を出されていた新井和也さんから初めて連絡をいただいたのは、2008年の冬でした。年齢や住まいが近く、同じ分野を専攻するなど共通する話題が多いこともあり、それから何度も連れだって植物を撮りに出向きました。苦労の末に見つかったコヒナリンドウカザグルマなどの希少種の撮影や、移動の車中での花談義は、今も楽しい思い出となっています。

 それだけに、2013年の7月に新井和也さんの訃報を聞いたときは、あまりに突然のことに声もありませんでした。これから何十年にわたり、この分野の第一人者として活躍されると期待していただけに残念でなりません。今もなお、その著作は植物ファンの道しるべとなり、多くの作品を観賞できるほか、当時の活躍のようすをブログ「KAZの活動記録」でたどることができます。

 わたしがその前年の6月、新井さんと出かけた際の目的としていたのがクモイコザクラでした。ところが半ばまで登ったところでわたしに急な予定が入ってしまい、やむを得ず下山となり、二人ともクモイコザクラは見れずじまいでした。結果的にこれがご一緒した最後の山行となってしまい、わたしとしては悔やみきれないままでした。

 長崎から戻った年にようやく同じ山を再訪し、クモイコザクラを間近に見ることができました。8年越しの慰霊登山となりましたが、予想を上回るみごとな咲きっぷりに、新井さんにも見せてあげたかったと思いつつ、じっくり被写体と向き合うひとときとなりました。
            (2020.6.7 山梨県)

○野生植物写真館「クモイコザクラ」
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