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表紙によせて

 花が少ない冬のあいだは、植物の撮影をする機会の少ない季節といえますが、このころだからこその被写体もあります。冬も葉を落とさず、砂浜で真っ赤に色づくハギクソウを見ようと、まだ暗いうちに自宅を出発し、高速道路を西へと向かいました。

 たどりついた海岸では、沖を輸送船がゆきすぎ、太平洋を遠く望むことができます。ひと一人いない砂浜をあてなく歩き回りますが、さいわい、この日はみごとに晴れわたって風もなく、植物探索にはおあつらえ向きです。エビヅルなど、他の植物の紅葉にまどわされながらも、ようやくハギクソウにめぐりあうことができました。

 初めて見るハギクソウは、枯草やハイネズのあいだから、あざやかな朱色、深みのあるレンガ色、緑と茶色の絵の具を混ぜたような色のものなど、色とりどりの葉をのぞかせていました。思っていたより数の多いようすにひと安心しましたが、開発などによるちょっとした変化であっというまに消えてしまいそうな生育環境です。

 撮影を終えて駐車場までもどる途中、20年以上前、タカの渡りを見ようとここを訪ねたことがあるなあと、当時を思い出しながら、そのころはその名前すら知らなかった植物を求めて再訪するめぐりあわせの不思議さを実感しました。

             (2011.1.9 愛知県)

○野生植物写真館「ハギクソウ」
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