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表紙によせて

 中国・四国地方から九州にかけて、丘陵や山地の草原に隔離分布するというエヒメアヤメですが、どうせならその名前に冠された愛媛県で見てみたいと思っていました。ようやく願いがかなったのはこの年の春のこと、現地に近づくにつれ、遠目にもその中腹が草地になっているとわかる山が目に入り、あそこが自生地だろうと見当がつきました。
 
 登山口から歩きはじめてほどなく急斜面の草地が広がり、目をこらすと、ところどころに青紫色の花がかたまって咲いているのがわかります。初めて見るエヒメアヤメの第一印象は、写真のイメージ以上に小さい花だなあというものでした。そのサイズは同じアヤメ科のヒメシャガと同じくらい、色は濃青紫色から藤色に近いものまでバラエティがあり、外花被片も幅広いもの、ほっそりしたものとさまざまです。
 
 エヒメアヤメには「タレユエソウ」という別名がありますが、地元の言いつたえによると、その名の由来は次のようなものです。その昔、この地に流れ着いた船に乗っていた美しいお姫さまたちが、里人から教えられたこの山の蛇の穴にすむようになったものの、のちに追っ手の侍に見つかって斬られてしまい、それ以来、蛇の穴のまえに見たことのない美しい花が咲くようになったとのこと、その花はあのお姫さまの生まれ変わりだろうと、里人たちは誰いうともなしに「誰故草」と呼ぶようになったそうです。
              (2010.4.4 愛媛県)

○野生植物図鑑「エヒメアヤメ」
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